Interview

2016.5.30

バイオラボの作り方(2) 〜 YCAMバイオラボってどういうところ?〜

FabCafe編集部

BioClubでは、バイオラボ設置のため準備をしています。でも、なぜ今バイオなのでしょうか?また、研究室の外でバイオテクノロジーを扱えるとして、どういったことができるのでしょうか?こういった疑問を持つ方々は少なくないはずです。

そこで今回は、日本でも先駆けてバイオラボを開設・運営している山口情報芸術センター(以下、YCAM)伊藤隆之さんと津田和俊さんにインタビューをさせて頂き、YCAMにバイオラボをつくるに至った経緯や実際の取り組みを紹介しつつ、上記2点を考えていきたいと思います。

▲YCAM外観[ 写真提供:山口情報芸術センター [YCAM]]  

YCAMとは、山口市にあるアートセンターで、市民や多様な分野の専門家と『ともにつくり、ともに学ぶ』ことを活動理念に掲げ、『アートと社会を結ぶメディアの実験場』として2003年に設立されました。YCAMのプロジェクトは、R&D(研究開発:Research & Development)形態で、リサーチや実験、そのアウトプットまでを長期的・総合的にコラボレーションを通じて展開されており、作品制作の際に開発したソフトウェアやハードウェアはオープンソースで提供するという取り組みも行っているそうです。その中のひとつに、伊藤さん達が取り組むYCAMバイオリサーチが存在します。

その設立者である伊藤さんは、どうしてバイオラボをつくろうと考えたのでしょうか?今回のブログでは、彼の目にはどのような世界が見えていたのか、いわゆるDIYバイオの歴史を遡りつつ探っていきたいと思います。

▲YCAM館内に設置されたバイオラボでの作業風景[ 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]]

YCAMが設立された2003年、ヒトゲノムプロジェクトとよばれる30億ものヒトの設計書であるDNAの塩基配列を解析する作業が完了しました。DNAの解析が容易になっていく中で、そのDNAとプログラミングコードの類似性に注目するひとたちが増え、情報技術でDNAをはじめとしたバイオの領域が扱えるようになってきました。また、それ以降、かかるコストが飛躍的に下がったことを背景に、2009年には、市民レベルでバイオテクノロジーを広めることを目的に、Genspaceという非営利のコミュニティ・バイオラボがNYで設立されました。伊藤さんはGenspaceの設立時期に、別のプロジェクトでNYに滞在中で、しかも同じビルの同じフロアにいたそうです。それ以降、Genspaceのことが気になっていたそうです。

その後も、バイオテクノロジーをよりパーソナルなものしようとする試みが世界的に散見されるようになりました。

そのような中、2014年以降、YCAMは「オープン」「バイオ」をキーワードとする人たちとの接点が増えていきました。例えば、YCAMが主催した展覧会「地域に潜るアジア展:参加するオープン・ラボラトリー」には、アカデミアや市民を含む様々なコミュニティと連携して面白い活動を展開し、自身がバイオハッカーでもあるインドネシア、ジョグジャカルタ在住のヴェンザ・クリスト氏が参加しています。また、2014年5月にサンフランシスコで行われたカンファレンス「Solid」では、素材としてのDNAの可能性等バイオに着目するMITメディアラボ所長の伊藤穣一氏との出会いもありました。また、NYのアートセンターEYEBEAMが数年のうちにバイオラボを設立することを始め、多くの施設にバイオラボが設備として導入されていることも知りました。

『たとえば個人レベルで、自分が買ってきたお肉がどこからきたのかを調べるようなことがもっと身近になれば、世の中がもっと変わるのではないか。個々人がテクノロジーを駆使して情報を得ることができれば、現在の「普通 / 常識」が変わる。それが面白いと思うし、YCAMではそういうワークショップを行いたい。

このような考えに賛同したYCAMのメンバーとコラボレーターたちは、バイオラボ開設に向けて動き始め、2015年には「アグリ・バイオ・キッチン」という、「食」にフォーカスした市民参加型のオープンなワークショップ・勉強会を企画し、アーティスティック・リサーチ・フレームワーク BCL や『Cooking for Geeks』の著者 Jeff Potter 、当時大阪大学助教であった津田さんを招き、その体制を整えていきました。バイオの対象となりうるものは、わたしたちの生活の中に数え切れないほどに溢れています。だからこそ、もし誰もがバイオを自由にツールとして使うことができるようになったのなら、研究対象に留まらず、未来のメディアとして機能する日がくるのかもしれませんね。

▲アグリ・バイオ・キッチンの様子 [ 写真提供:山口情報芸術センター(YCAM)、撮影:田邊アツシ ]

YCAMバイオ・リサーチは、同施設内でのイベントに留まらず、国内外で活動を行っています。最近では、瀬戸内国際芸術祭2016の春会期に作品を出展していました。そこでは、小豆島の暮らしをリサーチし、地域にいる酵母を培養・観察することで、微生物と地域の営みや知恵を可視化する取り組みを行ったそうです。

▲酵母を培養して作ったパン [ 写真提供:Yuma Harada  (UMA/design farm)  ]

この取り組みでは『地域のあちらこちらで採取した酵母の生活を、顕微鏡で覗いたり、パンをつくったりして調べる』という、普段の生活の中で意識することのない微生物を顕在化させると共に、その方法をオープンに共有することで研究室の外でもバイオの実験ができるという可能性を示しました。また、このような取り組みを通じて、ミクロな視点で地域を見つめなおすことは、まちづくりの文脈でも新たな意味を持つと言えそうです。
バイオは、生物学や化学など、自然科学のイメージを強く持たれている方が大半だと思います。しかし、YCAMが社会科学の分野でも有効なツールとして機能しうることを小豆島で示したように、実際のところはもっと幅広い分野に応用が可能な柔軟性を持っています。今までバイオと縁のなかったひとと、バイオとのかけ算の中から何が生まれるのか、バイオラボのオープンが一層楽しみになりました。

 

 

BioClubは、日本において黎明期に当たるバイオテクノロジーの領域を盛り上げるべく、多彩な領域のプロフェッショナルを集めたミートアップ形式のイベントを行っています。
3回目となるBioClub Meetup vol.3では、BioClubにおける実践型の実験的プロジェクトであるBioHackAcademyの受講生による成果発表イベントと展示会を行います。

【イベント概要】
Bio Hack Academy Graduation Show 〜 誰もがBioをハックできる時代をつくる〜
日時:2016年6月4日(土)13:00-16:00
会場:FabCafe MTRL
〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7 道玄坂ピア2F
https://mtrl.com/shibuya/events/bioclub-meetup-vol-3/

 

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